あるところに、双子のきょうだいがいた。
 かれらは太陽の神と想念の女神との間に産まれた、神様の子供だった。母親である想念の女神によく似た、宵闇を思わせるつややかな黒髪と、透き通るような白い肌をした、それはそれは美しい双子だった。
 けれど、かれらは何を司るでもなく、神様としての特別な力もなかった。それに、かれらの父親――太陽の神である彼は、光の如き黄金色の髪に、大地の如き小麦色の肌をしており、その身体は常にまばゆい光と熱を放っていた――とは似ても似つかなかった。このことからかれら父親は、かれらの事をあまり構ってやることはなかった。かれらの面倒を見るのは、専らかれらの母親の役目だった。

 もちろんそんな生活が長く続くはずはなく、暫くしてかれらの母親は何もかも投げ出して家を出て行ってしまった。出て行く際に彼女は、自らの「影」を用いてひとりの女を造り出し、自らの身代わりとして家に残した。「影」はこの世に生を受けて直ぐに、太陽の神の妻と、かれら双子の母という大役を命ぜられたのだ。
 「影」は最初のうちは、その役目を果たそうと躍起になったが、結局のところそれは無理だった。「影」はやがて、かれらに対して声を荒げるようになった。そして、かれらのうちの一人が厳しく責め呵まれれば、もう一人が必死でかばおうとする様が気に障ったのか、ついにはかれらに対して手を挙げるようになった。
 そして悪いことに、その様子はかれらの父親に見られてしまった。かれらの父親は、このときようやく「影」の正体に気付いた。彼が「影」に呪いをかけると、それは黒い塊となって土くれのように崩れて消えた。その様子を見届けたら、何処へと去っていった妻を探すべくどこかへと消えてしまった。残された我が子のことなど、まるで眼中にはないようだった。

 そして、残されたかれらもまた、家を出て行く事に決めた。幼いながらに「自分たちの居場所はここではない」という事を感じ取っていたのだろう。
 行くあてなど無かったが、それでもかれらは、広い広い「世界」に向けて、ちいさな足を踏み入れた。かれらが、誰にも邪魔されることなく、静かに過ごせる場所を求めて。

* * *

 「どこにいこうか?」かれらのうちの一人が問う。
 「…どこがいいかな」かれらのうちのもう一人は、すこし迷いながら答える。
 「怖いかい?」かれらのうちの一人が尋ねると、かれらのうちのもう一人は小さく頷いて、じっと片割れの目を見つめる。黒々とした瞳は、不安げに揺らいでいた。

 「…やっぱり、わたし、こわい」かれらのうちのもう一人は、小さく呟くと、ぎゅっと手を握りしめる。
 「…ぼくがいっしょにいるから、だいじょうぶだよ」かれらのうちの一人は、不安げに握りしめられた手を優しく包み込むように、自らの手を重ねる。

 「ほんとうに?おにいさまは、とうさまやかあさまとちがって、どこにもいかない?」
 「ほんとうさ。ぼくはどこにもいかないよ。ずうっと、ずっと、ヤミーのそばにいるって、やくそくするよ」
 「…じゃあ、わたしも、ずうっと、ずっと、おにいさまのそばにいるって、やくそくする!」
 「ありがとう、ヤミー。それじゃあ、ぼくらが、ずうっと、ずっと、いっしょにいられるばしょを、みつけにいこうか!」
 「うん!…あのね、わたし、おにいさまがいっしょなら、どこまでもいけるとおもうの!」
 「ぼくも、ヤミーがいっしょなら、どこまでもいけそうだ!」

 かれらは楽しそうに笑いあいながら、ちいさな足を一歩ずつ踏み出していく。
 ――まだ幼いかれらは、この先に待ち受けている道が、長い長いけもの道となることを知らない。

 果たして、かれらが交わした約束は、守られるのか。
 そして、かれらが歩む長い長いけもの道の先にあるのは、楽園か、はたまた焦土なのか。
 それを知る者は、まだ、どこにも居ない。