私の赤ちゃん。ずっと会いたかった私の赤ちゃん。
遠い遠い国へと行ってしまったお兄様が、私に遺してくれたたからもの。

あのね、貴方がいてくれたから、ひとりの夜も暗闇に怯えずに済んだのよ。
早く会いたいな、どんな顔をしてるのかな、お兄様と私はよく似ているから、私たちと同じ顔になるのかしら?
それとも、私たちのお父様やお母様にも似るのかしら?
(…お父様に似るのは、ちょっと複雑だけど)

そして、お兄様がいなくなってから、10度目の月が昇った夜。
裂かれるような痛みを越えて、私は赤ちゃんと会った。
…小麦の肌は、私たちのお父様に似たのね。
でも大丈夫、私は貴方を嫌ったりはしないわ。絶対にね。

どうやらこの子は男の子みたい。
まだ目は開いてないけれど、お兄様みたいなハンサムになるのかしら?
可愛い可愛い私の坊や、大きくなるのが楽しみだわ。
(…なんて言ったら、お兄様は妬いちゃうかしら?)

そういえば、この子の声をまだ聞いていないわね。
−前に森の中で、鹿が子を産むのを見たとき、
赤ん坊は、母親を呼ぶように泣いていたけれど、ヒトは違うのかしら?


…急に、胸の奥が冷たくなったような感覚が走った。
赤ちゃんに添えた手は、私の血と羊水の、ぬるりとした感覚と、生温い温度を伝えている。
−でも、この子の体温だけが伝わってこない。



(…ねぇ、どうしてそんなに冷たいの?)